今回ご紹介いたしますのは、世界一を誇るパリ・オペラ座バレエ団の難関「バレエピアニスト」の資格を手にした実力者、蛭崎あゆみさんです。
蛭崎さんは、単身でパリに渡り、紹介者が誰もいない孤独状況の中、持ち前のガッツと自分の夢をあきらめない志(こころざし)で夢を形にしました。パリの街にある小さなバレエスタジオに紹介者なく訪問し、「無償で良いから弾かせて欲しい」とお願いした一年後には、パリオペラ座のバレエピアニストコンクールの最終決戦へ進む舞台までのぼり、見事、パリオペラ座のバレエピアニストとしての資格を手に入れました。
その後、ウィーン国立オペラ座バレエ団では初めての研修生として派遣され、オファーも受けるほどに。蛭崎さんの実力は今やヨーロッパにまで知られています。2004年、当方で主催した芸術文化をたのしむ会・閨秀サロンで、バレエ音楽を蛭崎さんに演奏していただいたことがきっかけで、それ以来、蛭崎さんの音色に魅了され続けている私です。今回は私の白金アトリエでお話をお伺いした模様をお届けいたします。
【マダム】
今日は、お稽古の合間に貴重なお時間をつくっていただき、ありがとうございました。本日は、お話しが伺えることをとてもたのしみにしていました。つい最近、発売になったばかりのバレエレッスンCDも聴きました。部屋でバックミュージックとして聴いていても心地よく、私はとても気に入って聴かせていただいています。
【蛭崎さん】
ありがとうございます。あのCDは、バレエレッスン用のCDで踊るためのものなのですが、そんな風に聴いて頂いているとは、驚きでとてもうれしいです。
【マダム】
本当にキレイな音色で、私は、心も身体も部屋の中で踊り出しそうです。私のサロンでは、生徒の皆さんにピアノのバレエ音楽を日常のバックミュージックとして聴くことをオススメしています。バレエを踊らない方にも実はとっても好まれる音色なんですよ。CDについて、後ほどお伺いするとしまして…まずはあゆみさんのご職業の「バレエピアニスト」についてお伺いしたいと思います。
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ウィーン国立オペラ座のバックステージにて |
【蛭崎さん】
バレエピアニストには、午前中に行うバレエ団ダンサーのトレーニングクラスのために弾くという仕事と午後から行われる公演リハーサル稽古のために弾くという2種類の仕事があります。午前のクラスを弾く仕事には“即興性”や“音楽センス”が必要とされ、午後のリハーサル稽古では、“バレエ作品の知識”“ピアノテクニック”“指揮者とのコミュニケーション能力”が必要とされます。どちらもそれぞれ違った熟練さが必要となるので、日本では、どちらか一方だけを専門にする方が多いです。私は、どちらも会得したい思ったので、パリで学んだ後、ウィーンに渡りました。日本ではこの職業の認識度は、まだまだ低いのですが。。。。。
【マダム】
確かに、バレエピアニストさんのことをご存知ない方は日本では多いですね。
でもバレエピアニストさんがいなければ、現代のバレエの芸術はここまで高くならなかったでしょうね。
【蛭崎さん】
そう思います。
バレエピアニストの仕事は、感単に言うと音楽と踊りが結びつくところを見つけてあげて、結果として、舞台に立った時の「美の総合芸術」としての質を上げることだと思っています。
私の恩師であるウィーン国立オペラ座バレエ団の名バレエピアニスト、イゴール氏は(写真右)は、「この仕事がどれだけ大切なものか、それはバレエダンサーが一番わかっている。彼らの美しい足は僕達が作っているんだ。『こんな音楽で踊りたくない』とダンサーが思いながら稽古したら、彼らはもうそれ以上は美しく鍛えられることはないんだ」と私に教えてくれました。私に勇気を与えてくれた言葉でした。
【マダム】
パリやウィーンで仕事をされていたときに学んだ、美意識などありましたら、お伺いしたいのですが。
【蛭崎さん】
はい。それは、堂々とした自分のスタイルを持つこと、比較をしないポリシー、オリジナリティーを表現すること、そして自分の意見をはっきりと表現することです。これは、今、日本で仕事をしていても生かされています。
【マダム】
あゆみさんは、とてもご自分の人生に前向きで、着実に夢を実現されていますが、小さな頃からそうだったのですか?
【蛭崎さん】
それがですねぇ、子どものころは、引っ込み思案でした(笑)。公園のすべり台にのぼっても、後ろから誰かがきているとわかると、わざわざ階段を降りて、ゆずったり。
小学校のころは、男の子からいじめられていたので…。ピアノは3才からはじめていたのですが、いつも音が小さいと言われました。今は音が大きいとよく言われるのですが(笑)。
【マダム】
その引っ込み思案のあゆみさんが、別人のように、自分を積極的に表現しはじめるきっかけが、きっとあったと思うのですが。それは何だったのでしょうか。
【蛭崎さん】
今振り返ってみると、中学で、女子校になってから、のびのびしはじめたように思います。男子にいじめられていたこともあったので、急に解放されたように。
【マダム】
なるほど…..、やはり、環境って大事ですね。環境に助けられたり、影響されたりしながら、
人生の道が形成されていくのですね。さて....お待たせしました。
あゆみさんのCDの聴き所を伺いたいと思います。私は、26番目のReverence(レヴァレンス)の音楽が最も好きなのですが、この曲もあゆみさんの即興なのですよね。驚きました。美しく繊細で、でもダイナミックで、いいですね。あゆみさんにご協力いただいたお陰で、私のホームページのトップでも、毎日日替わりで、CDの一部が聴けるようになりました(最上部左上のPLAYボタンをクリックしてください)。本当に嬉しく思います。ありがとうございました。
【蛭崎さん】
こちらこそ、私もうれしいです。このCDは、バレエ音楽、ジャズ、クラシック、即興と4つの特徴をつくり、ダンサーに飽きさせない構成にしました。私の弾くスタイルのひとつとして、“盛り上がり系”を意識しています。由美子さんが、気に入ってくださった26番目も大いに盛り上げています。気持ちを高揚させるように弾くことが、ダンサーにとっても大切だからです。そして即興で気をつけていることは、どの振り付けにも合うように弾くことです。
「私がいつも心がけていることは、『ちょっとこの人合わないのでは?』と
思った人でもがんばって、まずその人を好きになろうとします。」
【マダム】
あゆみさんはバレエも4才ぐらいから大学生まで学び、ピアノと両立されていらしたのですよね。
これはなかなかできるものではないですよ。一般的には、中学ぐらいから、ピアノかバレエかどちらかを選択しますから。私はバレエを選択してしまいました。。。バレエピアニストは、“踊り心”がないとできない職業ですから、あゆみさんのバレエ経験が大いに役立っているのですね。
ところで、普段は、指のケア、体調管理など、どのようにされているのですか?
【蛭崎さん】
バレエピアニストは、腕や肩の故障が多いんです。けんしょう炎など。ネイルカラーなどもちろん、出来ないので、爪はこまめに切ります。腕だけで弾かないように、背中(広背筋)を鍛えるために、週に2回ぐらい水泳にいきます。
【マダム】
最後に、今後の活動について、そしてあゆみさんが大切にしているポリシーなど聞かせください。
【蛭崎さん】
今秋(2008/9)から、新国立劇場の専属として活動を中心にしていきます。バレリーナの動きからインスピレーションをもらって弾くことが、私のピアノの可能性を広げてくれます。私にとって、新しい教師、良いダンサーと出会うことは私の魂を奮い立たせてくれるのでとても大切です。私がいつも心がけていることは、『ちょっとこの人合わないのでは?』と思った人でも、がんばって、まずその人を好きになろうとします。そうすると事がうまくいくようになります。
【マダム】
本当にあゆみさん、素晴らしいです。バイタリティーがあり、いつもステキな笑顔と前向きな気持ちを持ち続けていらっしゃる、あゆみさんに、目が離せませんね!
あゆみさんの今後のご活躍を、心から応援いたします。あゆみさん、本日は楽しいお話しを聞かせていただきまして、ありがとうございました。
